月刊 マネジメント・テクノロジ

95年6月26日発行 第3巻 第5号

特別付録 社長との対話
行動的マネジメントは儲かるのか?



 前号まで掲載された「社長の行動シリーズ」について、都内の某ソフトウエア会社の社長さんから貴重なご意見とご質問をいただきました。この社長さんは、マネジメントテクノロジを購読され、実際にご自分の会社で行動的マネジメントを導入されておられる方です。
 今回は特にこの社長さんからの許可を得て、社長さんとコンサルタントとの会話の一部を紙上で公開いたします。



社長 私の会社では徐々に行動的マネジメントを導入して参りました。今では、社員全員が週間ミーティングを行い、目標設定とフィードバックをしています。達成率のグラフを壁にはったりもしています。私のところには、毎週、各プロジェクトチームの達成率や出来高があがってきます。どのチームがうまく仕事をやっていて、どのチームに問題があるか、週単位でわかるようになりました。
コン 素晴らしいですね。社員の皆さんはどう感じていらっしゃいますか?
社長やはり、最初は、めんどうくさいとか、無駄だとか、いろいろ批判もありました。行動的マネジメントを全社的に行うため、特別にチームをつくり、社員の声をすいあげていくことで、ようやく最近軌道に乗ったところです。
コンご苦労様です。何か新しいこと、特に人事に関する革新を企業に導入するときには、必ずといっていいほど、内部からの強い抵抗にあうようです。革新の中心人物がよほど明確なビジョンを持っていない限りできることではありません。ひとえに社長さんのお力です。
社長ありがとうございます。でも、不安もあります。経営に関してです。ご存じの通り、ソフトウエア業界はバブルが崩壊した後、非常に状況が悪くなってきています。倒産した中小企業もたくさんあります。行動的マネジメントをやっていて、これでほんとに経営状況が好転するのでしょうか?
コン確かに景気はなかなかよくなりませんね。難しい問題です。回答する前に少し質問させて下さい。社長さんは会社の経営状況を現在どのように測っていらっしゃいますか?
社長年間や四半期の売上げや利益ということですか?
コンそうですね。それでは、会社あるいはご自身の経営努力はどのように測っていらっしゃいますか?
社長....よくわかりません?やはり、売上げや利益で評価されるのではないんでしょうか?
コン売上げや利益は確かに最終的な評価基準です。でも、こうした評価は経営努力とは無関係に変わってしまうこともあります。
社長と言いますと?
コン産業全体が不景気になったり、競争相手が強かったりすれば、どんなに素晴らしい経営努力をしていても売上げや利益は下がります。逆に、いいかげんな経営努力をしていても偶然商品がヒットしたりすれば売上げや利益は下がります。売上げや利益は経営状況を測る目安にはなっても経営努力を測るには適切ではないわけです。
社長なるほど。
コンそれに売上げや利益は経営努力をしてから、ある程度の時間がたたないとでてこない数字です。今日や明日、何をすればいいかについてはほとんど役に立ちません。
社長それではどうすれば経営努力が測れるんでしょうか?
コンこれは答えずらい質問かもしれませんが、御社の売上げを下げている最も大きな要因は何ですか?
社長いや、それはキツイ(苦笑)。いくつかあります。たとえば、ソフトウエア開発の見積もりに失敗して、本来よりもマンパワーを投入してしまう。後からお客さんから追加分をいただけないとなると、大きな穴を開けることになります。
コンソフトウエア開発ではよくある問題だと聞きます?
社長そうです。
コンどうすれば、この問題を回避できますか?
社長やはり、ちゃんとした見積もりを作り、それを越えそうなときにはできるだけ早くお客さんと話をして対処をするということだと思います。
コン進捗を管理し、納期が守れないときには、その理由を明確にして、お客さんに承認してもらい、その後のスケジュールを金銭的なことも含めて相談する、ということですか?
社長そうですね。
コンそうすると、プロジェクトリーダーがこれを確実に遂行しているかどうか管理することが、経営努力の1つなわけです。そして、たとえば、全社で進捗が予定どおりのプロジェクトの割合、遅れたときの対処までの時間、お客さんとの確認ができているかどうか、などが経営努力を測る指標になります。
社長それなら、売上げや利益と違って、毎週のように測れるわけですね。そして、低かったらすぐに問題解決のアクションをとることができる。
コンそうです。次のアクションにすぐ役立つ評価をすることが重要です。
社長私の会社でやっている週間ミーティングにも導入できそうだ。でも、そうやって経営努力を向上したとして、本当に経営状況がよくなるのでしょうか?
コン誤解しないでいただきたいのですが、それは分かりません。
社長えっ!?
コンそれは誰にも分かりません。そして、これは行動的マネジメントに限ったことではないのです。「こうすれば必ず儲かる」形のコンサルタントは眉唾と思った方が無難です。
社長それじゃ、何のために行動的マネジメントをやるんですか!
コン行動的マネジメントをしても儲からないと言っているわけではありません。行動的マネジメントでは儲かる確率を最大限にします。自分ができる範囲で最大限の経営努力をするということです。これには行動的マネジメントはとても有効です。でも、たとえば御社のように週間ミーティングのシステムを導入したからそれで終わり、というわけではないのです。常に経営努力を測る指標と経営状況を測る指標とを照らし合わせて、両者が一致するように経営努力を修正する必要があります。
社長フーン。私は週間ミーティングの仕組みを導入して、これですべてうまくいくのかと思っていた。
コンいやいや、面白いのはこれからですよ(笑)。社長さんは経営努力を測るシステムを導入したのです。これからはいろいろな目標を立ててそれを実現していけます。個人個人の社員の生涯的な学習とかね。
社長もちろん、会社として存続していかなければなりませんから、利益は確保しなければなりません。でもその一方で、社会に貢献したり、社員の皆さんが一人一人の夢を実現できるような会社にもしていきたいのです。
コン素晴らしいビジョンですね。金銭的なことだけではなく、そうした社会的や個人的な価値を経営努力に含めることもできます。
社長やはり、これからというわけですね!