月刊 マネジメント・テクノロジ

95年4月20日発行 第3巻 第3号

社長の行動シリーズ
経営ビジョンのマネジメント その5
ABC改革



 前回、社長の訓示を徹底的に行ったり、社員を教育セミナーへ派遣するだけでは、会社のビジョンはなかなか達成されないこと、そしてその理由をご説明いたしました。
 認識が変化するだけでは行動は必ずしも変化しません。たとえ変化しても一時的なものに終わることが多いのです。
 行動を長期的に変化させ、経営ビジョンを達成するためには、行動と環境とのダイナミックな関係、すなわちABCの3項随伴性を改革することが必要です。


 ABCの3項随伴性とは「〜のとき、〜をすれば、〜が起こる」という関係でしたね。

 たとえば、カスタマーサービスの長山君が、顧客からの問い合わせに対して適切な応対をするたびに、上司が、「今の応対は良かったよ」と誉めてあげれば、長山君の適切な電話応対は強化されます。つまり、将来にも起こりやすくなります。


「顧客第一主義」を強化するABC

先行条件(A) 行動(B) 結果(C)
顧客から質問 長山君が丁寧に答える 上司からの誉め言葉(↑)


 何が何でも誉めればよい、と言っているわけではありません。行動を観察して、望ましい行動が行われた直後に誉めることが一番有効です。

 社長が、「最近よくやってるね、頑張ってくれよ!」と社員に声をかけるのはどうでしょうか?
 これはもちろん悪いことではありません。社員にとって、社長から直に声をかけられ、しかも怒られるのではなく、誉められるのは嬉しいものです。
 しかし、具体的な経営ビジョンを持ち、それを戦略的に達成しようと考えているなら、声をかけるのも、もっと効果的にできるはずです。

 常に社員と行動を共にしていない社長にとって、望ましい行動が行われた直後に社員を誉めることは難しい、というより不可能に近いことでしょう。
 幸い、人間には言葉という便利な武器があります。過去に社員が行った行動を、できるだけ具体的に誉めることで、行動の直後に誉められないという弱点はカバーできます。
 たとえば、「君が先日提出した報告書、とても正確で、しかも顧客の最新のニーズの分析がよくまとまっていて、たいへん参考になったよ。どうもありがとう」と言われれば、社員も何を誉められているのかわかり、次回からも同程度以上の報告書が期待できるでしょう。

 まとめると、社長として社員の行動のABCを直に改造する一手段としては、次の3つがあげられます。

  1. 社員の仕事を具体的に知る(すべて知る必要はない)。
  2. その仕事を社員がいかに行っているか知る。
  3. そのことについて社員に具体的にフィードバックする。

 フィードバックするというのは、経営ビジョンの達成にとって期待にあったものであれば、そのことを指摘して誉め、そうでなければ、どうすれば期待にそえるのかアイディアを提供することです。決して、社員を責めたり、批判することではありません。
 また、欠点を指摘するときは、次回の目標を具体的に設定して、後で確認をすることも有効です。たとえば、報告書に重要な項目が抜けていたら、「今度の報告書ではXとYの比較をするように」と明確な指示を行い、次回に報告書が提出されたときに、そのことに関してフィードバックするのです。

社長の行動チェックリスト



 そんなこと忙しくてできない、と思われるかもしれません。でも、直属の上司にフィードバックすべき項目を提出させておき、社員一人につき3分で準備して2分でフィードバックを行ったらどうでしょう。週2時間費やせば、従業員百人の規模の会社でも、毎月、社員1人1人に社長として直にABCを実行することができるのです。
 もちろん、経営者としてもっと大切なのは、経営ビジョンを達成する行動が、自分自身が関与しないところでも強化されるよう会社のシステムを見直すことです。
 給与体系や昇進の仕組みはどうなっているでしょうか?経営ビジョンの達成を促進する行動を強化するように仕組まれているでしょうか?管理職の人たちは経営ビジョンの達成につながる部下の行動を強化しているでしょうか?

 最近話題になっている能力給や職能制度は、従来の年功序列式の仕組みのように、業績や達成とはほとんど無関係の給与システムから比べれば、行動と環境とのダイナミックな関係が改善されているとは言えます。
 しかしながら、究極のABCからすれば、まだ、不十分な点も多く見受けられます。
 たとえば、給与を会社の売上や所属する部の業績によって決定してしまうと、ある社員が、たとえ満足のいく行動をしていても、会社内部や外部の競争相手次第で、せっかくの望ましい行動が弱化されてしまうかもしれません。あるいは、業績とは関係のない行動が偶然強化されてしまうかもしれません。
 給与体系や人事考課は経営者レベルでしか変革することのできない重要な要因です。会社という集団で獲得した利益をどう分配するかの決定です。会社を繁栄させ、そこで働く人々を幸せにするABCを導入すべきでしょう。


業績第一主義で望ましい行動が弱化される

先行条件(A) 行動(B) 結果(C)
顧客に対して 営業マンがベストの営業サービスを行う 顧客がサービスではなく商品の性能だけで他社の商品を選択し、そのせいでで成績が下がる(↓)


業績第一主義で望ましくない行動が強化される

先行条件(A) 行動(B) 結果(C)
顧客に対して 営業マンがいい加減な営業サービスを行う 顧客がサービスではなく商品の性能だけで自社の商品を選択し、そのせいで成績が上がる(↑)



 ABCは給与体系のような公式のシステム以外でも作用しています。
 たとえば、社長が営業拡大を狙って、社員に自分で仕事をとるように奨励するとします。しかし、仕事を取ってきた結果、その仕事をするのはやっぱり社員です。つまり、ここには「受注をとってくれば、仕事が増えてよけいに忙しくなる」という弱化のABCが働いています。
 さらに開発やカスタマーサポートなど他の仕事と営業活動を兼業させようとすれば、「営業の仕事をすれば、その分、他の仕事ができなくなる」という弱化のABCが作用します。したがって、これだけでは社員が営業活動に従事しようとしないのは、実は、あたりまえということになります。
 これに対して、経営者としては、社員を営業の専任として他の仕事のABCから解放して上げるとか、時間配分をして受注が発生してもその社員の負担にならないように配慮しなければなりません。

仕事をとってくる行動が弱化される

先行条件(A) 行動(B) 結果(C)
社長に「仕事をとってこい」と言われて 顧客訪問を行う 仕事が入ってより忙しくなる。他の仕事が遅れる(↓)


社長の行動チェックリスト



 これらすべてを社長が一人で行うのはたいへんです。社長は、これらの仕事をいわゆる管理職の人たちと協力して行うことになります。
 逆に言えば、社長としては、ABCの分析や、それによる行動の改革を部長やマネージャーが実行できるように管理職のABCを整えることに集中することになります。