月刊 マネジメント・テクノロジ

95年1月30日発行 第3巻 第1号

社長の行動シリーズ
経営ビジョンのマネジメント その3
認識から行動へ




 ビジョンから会社を経営するために、これまで末永社長が実行したことをおさらいしましょう。

  1. ビジョンをわかりやすい言葉で表現する。
  2. ビジョンをすらすら言えるようにする。
  3. ビジョンの具体的な実現方法を社員に伝える。
  4. ビジョンが正確に社員へ伝わったことを確認する。

 あなたの会社の社員に、会社のビジョンと、それが自分の仕事にどう関係しているか質問すれば実感できるかもしれませんが、実際には、ここまでくるのもなかなか大変な仕事です。

 そして、ここからがいよいよ本番でもあります。ビジョンの理解が全社的に進んだ上で、 ビジョンを実現する行動のマネジメントが始まるのです。


認識から行動のレベルへ


どうして認識だけでは不十分なのか?


 コンピュータにしまっておいた大切な文章ファイルやデータを失ってしまったことはありませんか?
 もしものためにバックアップをとっておくことの大切さは認識しているものの、毎日欠かさず実行している人は希でしょう。

 運動不足は体によくないことは誰もが知っていますが、毎日適度な運動をしている人はあまりいません。

 阪神大震災があれだけの被害をもたらし、都市への直下型地震の恐ろしさを十分に知らしめたにも関わらず、 今日、今すぐ何らかの対処をする人の数は限られています。

 見込み客のリストを片手に、毎日数件でも挨拶の電話をかければ営業活動を助けることになると分かってはいても、ついつい明日にしようと先延ばしにしてしまいます。

 果たして我々はデータを失うことの重要性を認識していないのでしょうか?  健康に関してあまりに自覚が足りないのでしょうか?  地震の災害についてまだまだ本気になっていないのでしょうか?  営業活動に対する責任感が足りないのでしょうか?

 おそらく我々のほとんどは、データの重要性を認識しているし、 健康でいることを十分気にしているし、 地震の災害について非常に本気で、営業活動に対する責任感も持っています

 欠けているのは認識ではなく行動なのです。


どうして行動がでてこないのか?


 一般的には、行動の原因は心にあると考えられています。 だから、行動を変えるには心を変えなくてはならないと考えがちです。

 残念なことですが、心理学者の中にもこのような常識的な(素人的な)解釈をする人が多いのです。 だから、何か問題が起こると、すぐに心の病を治そうとして、説明したり、説得したり、励ましたり、 叱ったりと、いろいろなことを手あたり次第にやり始めます。ここではこれを心理学の罠と呼ぶことにします

心理学の罠
行動に何らかの問題があるとき、その原因となっている(と思いこんでいる)心の問題を治そうとして四苦八苦すること。


 ところが、行動の問題の最終的な原因は往々にして心にはありません。
 これは科学である(本当の)心理学が長年かかって示してきていることです。
 行動の問題の原因はABC分析で表されるような、 行動と環境とのダイナミックな関係にあるのです。

 末永社長がいくら「顧客第一主義」について説明して、社員全員がその重要性について認識するようになっても、 社員一人一人の行動と環境とのダイナミックな関係が変わらなければ、社員の行動は十分には変化しません。
 
 よってビジョンも実現されません。

 ビジョンを認識から行動のレベルへと移行するために必要なのは説教や勉強会ではないのです。ビジョンにそくした行動を起こす、行動と環境の関係をつくることが重要なのです。


どうすれば行動がでてくるのか?


 ここでABC分析を復習しましょう。

 ABC分析とは行動の先行条件(A)、行動(B)、そして結果(C)を分析する手法です。
 直前条件−行動−結果の関係は、「Aのときに、Bをすると、Cが起こる」 という行動と環境のダイナミックな関係で3項随伴性とも呼ばれます。  我々の行動の多くは3項随伴性に影響されているのです。
 たとえば、「パソコンのスイッチを押す」、 という行動は「電源が切れているときに(A)、スイッチを押すと(B)、電源が入る(C)」という3項随伴性があるからこそ起こります。


先行条件(A) 行動(B) 結果(C)
電源オフ スイッチ押す 電源オン


 故障の時のように、スイッチを入れても電源が入らなかったら、この行動は消失します(当然ですよね)。


先行条件(A) 行動(B) 結果(C)
電源オフ スイッチ押す 電源オフ


 先行条件も行動に影響を及ぼします。たとえば、作業中にスイッチを押すと電源が切れてしまいますから、この時にスイッチを押す頻度は減少します(これも当然ですね)。


先行条件(A) 行動(B) 結果(C)
作業中 スイッチ押す 電源オフ


 将来の行動の頻度を増やす結果を好子(こうし)、 この環境変化が起こって行動の頻度が増加することを強化(きょうか)と呼びます。

 逆に、行動の頻度を減らす結果を嫌子(けんし)、 この環境変化が起こって行動の頻度が減少することを弱化(じゃっか)と呼びます。

 また、故障の例のように、行動の後に好子が起きない場合にも行動の頻度は減少します。これを消去と呼びます。

 ビジョンを実現するためには、それに役立つ行動が強化され、役立たない行動が消去・弱化されるように、 先行条件と結果の仕組みをうまく配置し、行動と環境のダイナミックな関係を調節してあげることが重要なのです。
 行動と環境の関係、すなわち3項随伴性を調整して行動を変化させるのが、パフォーマンス・マネジメントの真髄なのです。

 テトラシステムズ、長山君の接客行動を分析してみましょう。末永社長とのミーティングから、今では長山君も「顧客第一主義」を十分に理解し、その重要性を認識しています。

客C「もしもし、○○という商品のことで質問があるのですが」
長山「申し訳ありませんが、それは当社の製品ではございません」
客C「えっつ、そんなはずはないだろう。すぐに情報が必要なんだ」
長山「そうですか、少しお待ち下さい... この番号に電話してみて下さい....」

 ビジョンを実現する行動が引き起こされ、末永社長も大喜びです。 でも、安心するのはまだ早い。次の電話ではどうでしょう? その次は?  「顧客第一主義」にのっとった行動は1年先でも維持されるでしょうか?

 残念ながら、ほとんどの場合、答えはNOです。 セミナーや研修から帰ってきたばかりの社員が、初めは見違えるように仕事をするけども長続きはしないという問題と一緒です。

 その理由はABC分析をすれば分かります。皆さんも一緒に考えてみて下さい。


問 題

 長山君の顧客対応がこのまま続かずに頻度が減少するとします。
 それにはどういった原因が考えられるでしょうか? 飽きっぽいとか、責任感の問題とか、 心理学の罠にははまらないよう注意して、ABC分析を使って答えをだしてみて下さい。


先行条件(A) 行動(B) 結果(C)
客に質問され 丁寧に回答する  ? 


答えは来月号で。