月刊 マネジメント・テクノロジ

タイトル

94年9月10日発行 第2巻 第9号

成果給で人件費を下げるためには



成果給で人件費を下げるためには


日航、契約制スチュワーデスを導入!!
遂に年功序列制の崩壊、日本型経営の終焉か??
などなど、近頃の新聞雑誌は何かとさわがしい。

 企業が年功序列と終身雇用を基本にした日本型経営スタイルを見直しているのには、 それなりの理由がある。

 円高によって外国市場での競争がますます厳しくなり、 これまで日本経済の発展を支えていた製造業は人件費の低い東南アジア諸国へ 次々と生産拠点を移している。産業の空洞化現象である。
 先日は日本製原子力軽水炉の価格が欧米諸国やロシアの製品に比べて2倍以上であることが 報じられていた。この差額のほとんどが人件費の違いによるものだそうである。
 東南アジアや南米諸国のように労働者の所得がそもそも低いというならともかく、 同等の賃金レベルの労働者を使っていて製品価格にこれだけの格差が生まれる背景には いったいどんな問題があるのだろうか?


高いコストの原因は生産性の低さ?


 人件費の削減は昨今の企業にとって生き残りに必要なトップ項目の一つである。
 しかしながら、生産性やサービスの質を向上しながら、 しかも従業員を満足させながら人件費をカットするのは至難のワザである。

 成果給はこれを実現する可能性を持っている。


成果給を導入して人件費を削減する


 一口で成果給と言っても、何を成果とし、誰がどうやってその成果を測定し、 いかにそれを元に給与を計算するかによって無限の方法が考えられる。
 中にはもくろみ通りにうまく作用するものもあれば、 逆に従業員のヤル気をうばってしまうものもあるだろう。

 今月のマネジメントテクノロジでは成果給導入にさいして注意すべきポイントをいくつかあげてみたい。


1.会社にとって重要な成果を評価しているか?


 重要そうな成果と重要な成果とは異なる。

 たとえば、皆勤は社員の士気をおしはかる材料として重要そうではあるが、 果たして会社の利益にとってどれくらい重要だろうか? 皆勤給を毎月定額払うよりも、 同じ金額をより仕事に密接した成果に対して払った方が、 会社全体にとっては利益的である可能性が高い。

 また、上司の主観的な判断を元に査定を行ってはいないだろうか?

 たとえば、 リーダーシップに関して上司が部下の行動を5段階で評価するとする。
 ところが上司の評価を上げるための行動とプロジェクトを能率良く進める行動とは違うかもしれない。
 もちろん、重要なのは後者で、重要そうなのが前者である。 両者が一致していなければ成果給がいくら効果的でも会社の利益には結びつかない。

 会社にとって何が重要な成果か見極めるのは難しいが、 成果給を導入するためには最初に解決すべき重要なステップである。


2.給与計算の仕組みは十分に理解されているか?


 自分の給与がどのように計算されているか正確に把握している社員は何人いるだろうか?
 時間給ベースの給与では残業時間分くらいの変動しかないから、 給与計算に興味を持つ社員は少ないかもしれない。
 ところが成果給を導入するとなると話が違ってくる。
 今月の給与は今月の成果にかかってくる。そこで給与計算の公式が正しく理解されなければ、 動機づけとしては作用しない。
 成果給を導入するさいには対象となる社員全員が十分その仕組みを理解するまで 説明を続けることが大事である。


3.成果を上げる方法は知られているか?


 給与計算の仕組みが理解されても、成果を上げる方法が分からなければ、 動機づけの効果はあまり期待できない。

 たとえばプログラマーの給与を作成本数によって計算しても、彼らが生産性向上の方法を 知らなければ成果給の効果は期待できない。
 「動機づけているのだから自主的に勉強するべきだ」というのは理にかなっているように 見えて本末転倒である。成果給を導入する理由はあくまで利潤を上げるためであって、 従業員を責める口実をつくるためではない。
 成果給の効果を最大限に発揮するには適切な教育プログラムの併用が好ましいし、 逆に言えば、社員教育やトレーニングの効果は成果給と連動することで最大になる。


4.成果を上げる方法は実行可能か?


 世の中にはやり方を知っているだけではできないことが結構ある。
 ゴルフの教本をいくら読んでも、すぐにプレーが上達するわけではない。 成果を上げるには練習が必要な技能も存在する。
 上司や指導者の立場から「やり方を伝えた」「〜しなさいと言った」「だからできるはずだ」と いうだけではダメなのである。

 技能によっては、1)模範を示して見せ、2)マネさせて、3)できたところを誉め、 できないところを具体的に指示するというサイクルを何回も繰り返さなければならない。
 また、技能はあっても実行は不可能ということもある。たとえば、営業担当者の 給与の一部を顧客訪問件数にしがたって計算しようとしたが、これまで月給で貰っていた給与を 越える額を稼ごうとすると、一日100件以上回らなければならない計算になるとする。
 これでは動機づけどころではない。
 成果と給与の関係を決定する場合には、現実的な目標や基準を設定し、 しかも、一度設定した基準は決して難しくしてはいけない。


5.給与アップが本当に報酬として作用しているか?


 根本的な問題だが、給与の増加が必ずしも報酬として機能しないこともある。 特に、それが労働時間の追加によっている場合はそうである。
 残業代を貰うくらいなら早くマイホームへ帰って家族とゆっくりくつろぎたいとか、 休日には仕事のことをすっかり忘れて趣味の世界に浸りたいという人がだんだん増えてきている。 こうした人にとっては、生産性の向上による給与総額の増加よりも、 労働時間の短縮の方が報酬として作用するかもしれない。
 金銭報酬だけが有効な動機づけと考えるのは危険である。
 社員の価値基準を考慮して、 たとえば、成果を上げた社員には長期間の有給休暇を保証したり、 あるいは次のプロジェクトを選択する権利を与えたり、と金銭以外の報酬を考えることである。


6.成果は公平に測定されているか?


 どんな査定の仕組みにも必要なのが測定の公平さである。
 特に、査定の結果が直接給与に関係する成果給ではなおさらである。


 そして、この意味で一番危険なのが主観的な評価である。
 前述したようにリーダーシップに関する抽象的な評価は作業チーム内での 意識あわせ(何が期待されているか、何を期待しているか)には有効かもしれないが、 給与計算には使えない。同じ項目について違う上司に尋ねたら違う評価がでるかもしれないし、 同じ上司に尋ねても先週と今週とでは違う評価がでるかもしれないからだ。
 評価項目に具体性が欠けると評価の信頼性が低下し、 これを元にした給与は動機づけとしては作用しない。


7.査定は頻繁に行われているか?


 半年や4カ月に一度、賞与の査定のために従業員の評価を行う会社は多いようだが、 評価の直前になると部下の行動が変化することに気づいた人はいないだろうか?
 なんとなく遅刻が少なくなったり、何かと積極的に意見を述べたりする。
 査定が効果的なら必ずこうした行動の変化が観察できるはずである。

 一年中、ボーナスの査定時直前のように社員が動機づけられていたら、 と思ったことはないだろうか? 成果給を導入して1日、1週間、1カ月、3カ月、 そして6カ月と、短期的・長期的な成果を併せて測定して評価すればこれが可能である。


8.給与体系改訂によるメリットは公平に再分配されているか?


 成果給導入による利益を企業側だけで吸収するのは公平ではないし、 従業員からは受け入れられにくいだろう。

 成果給を上手に使えば個人の給与はアップするはずである。 これまで10人でやっていた仕事が8人でできるようになるからである。
 だからといって、余剰人員をすぐに切ったりすると、従業員と会社との関係が悪化する。 そうしなくても退職者や配置転換になった者の補填をしなければ、 人員は生産性に見合った数に次第に自然と調整される。
 新しい給与体系から生じるメリットを企業、従業員、そして顧客の3者間で調整して、 皆が満足するように分配することで成果給は長く根づくはずである。