月刊 マネジメント・テクノロジ

タイトル

94年8月10日発行 第2巻 第8号

選択の法則とシステム的思考:後編



−組織行動マネジメントによるリストラクチャリング−

システム的思考とは?


 「システム」というのは「体系」ということです。
 システム的に考えるということは物事を直観や推測に頼るのではなく、 論理的に構造的に考えるということです。
 形あるものをシステム的に考えるのは比較的簡単です。 管理部、営業部、開発部などといった組織の構造や、部長や課長や係長といった 人事の構造は考えやすいシステムです。
 組織行動マネジメントによるリストラは、こうした目に見える構造だけではなく、 企業目的や組織の中の選択の法則といった目には見えない構造もその対象にします。
 事業所や開発グループなどの単位で組織の贅肉を落とすだけではなく、 組織全体で行動のリストラを行うことで改革を進めるのです。



 先月号で取り上げた「選択の法則」を「システム的」に使って情報処理サービス産業の リストラを考えてみましょう。

 産業の存続は業界の提供するサービスが消費者のニーズをどれだけ満たせるかによっています。 最近ではやれ情報ハイウェーだのマルチメディアなどと話題になっています。 しかし消費者一人一人の生活の質を向上するサービスが提供できなければ、 消費者は他の業界(たとえば不動産や娯楽)に価値をおくことになるでしょう。
 業界の存続はここにかかっています。


選択の法則のABC分析:業界レベル

A(先行条件) B(行動) C(結果)
業界間競争で 消費者の生活の質を向上する業界 生き残る
消費者の生活の質を向上しない業界 生き残らない


 業界の中に目を向ければ、そこには当然企業間の競争が存在します。
 情報処理サービス産業は比較的歴史の浅い業界なので、 たとえば建設業界や食品業界などに比べれば政府による保護や規制が比較的少ないようです。 大企業ということだけでその製品やサービスが売れるといったことは、 他の業界に比べれば少なく、数々のゲームソフトハウスの例にもれず、 新規参入者にも十分活躍のチャンスがあります。


選択の法則のABC分析:企業レベル

A(先行条件) B(行動) C(結果)
業界内競争で 顧客を満足させるシステムを提供する企業 利益あり
顧客を満足させるシステムを提供しない企業 利益なし


 それで業界内競争で生き残るためにはどうすればよいのでしょうか?

 あるソフトウェア会社が生き残れるかどうかは、 「個人」「行動」レベルの選択の法則をいかに工夫するかにかかってきます。
 これまでソフトウェア会社は製品やサービスの価格を開発に要した人月で 決定するという比較的アバウトな価値判断を行ってきました。
 加えて個人の能力を測るのは難しい(あるいは不可能だ)という認識もあり、 実際には生産性の高い技術者と低い技術者の間には雲泥の差があるのにもかかわらず、 その待遇にはあまり差がつけられてきませんでした。


選択の法則のABC分析:個人レベル(これまで)

A(先行条件) B(行動) C(結果)
ソフトウエア会社で働いていて 技術力や提案力を持った個人 ある程度の給与
技術力や提案力に欠ける個人 ある程度の給与


 このように「個人」のレベルでの選択の法則は、個人の技術力や提案力には あまり関係がなかったようです。
 むしろ大多数の人間にとって会社で生き残るためには「どれだけ徹夜に耐えられるか」とか 「どれだけ回りの人間とうまくやっていけるか」が重要だったようです。

 極端な話ですが、開発にかかった工数(人件費)をもって顧客に請求するソフトウエア会社に とってみれば開発に時間がかかった方がいいわけです。 つまり生産性が低い方が売上げが上がるという逆転現象が起こります。
 これでは余計な教育費をかけて「個人」の技術のレベルアップを図ろうという風潮は 見られなくても当然です。


選択の法則のABC分析:企業レベル(これまで)

A(先行条件) B(行動) C(結果)
業界内競争で 技術者のレベルアップ、生産性を向上する 売上げ減少
技術者のレベルアップ、生産性を向上しない 売上げ増加


 個人レベルの選択の法則がそのような調子ですから、行動レベルでも専門誌を読むとか、 自分から技術セミナーへ参加するなどの積極的な自己啓発は選択されませんでした。
 むしろ「残業する」とか「今ある仕事を忙しそうにやる」といった行動が選択されていたのです。


選択の法則のABC分析:行動レベル(これまで)

A(先行条件) B(行動) C(結果)
ソフトウエア会社で働いていて 残業する、忙しそうに仕事をする 残業代や評判
勉強する、仕事を早く片づける 残業代、評判なし

 業界が生存し、企業や個人が生き残るためにはどんなリストラが必要なのでしょうか?
 成功のコツは各レベルでの選択の法則の辻褄を合わせていくことにあるようです。
 もう少し、具体的な例を考えましょう。

 たとえば「提案型のシステムエンジニア」を持つ企業が生き残るという選択の法則が 企業レベルで作用しているなら、これを個人レベル、行動レベルにまで貫くことが大切です。
 その時、ただ「提案型のSEを目指しなさい」と個人に要求するのではなく、

1)何らかの形で提案型のSEを認定して優遇し(個人レベル)
2)期待する行動には報酬を与えます(行動レベル)

 たとえば、2)には、顧客先へ訪問する前には必ずその顧客の情報を勉強してから出向くとか、 毎週4時間は新しい技術の獲得に費やすとか、 会社にとって役に立つ革新的なアイディアを月例ミーティングで最低一つは提案するとか、 こうした様々な行動がリストアップできるはずです。


選択の法則のABC分析:システム的思考で選択の法則を辻褄合わせする

A(先行条件) B(行動) C(結果)
平成不況に臨んで 消費者の生活の質を向上する業界 生き延びる
顧客を満足させるシステムを提供する企業 利益あり
技術力や提案力を持った個人 相当の給与
勉強する、提案するなど、期待される行動 報酬あり


 選択の法則の辻褄が合ったシステムには無理な雇用や解雇は必要ありません。 選択の法則によって人材は自然に適材適所へと移動し、人員も整理されるはずです。

 これが組織行動マネジメントからのリストラクチャリングの提案です。