月刊 マネジメント・テクノロジ

タイトル

94年8月10日発行 第2巻 第7号

選択の法則とシステム的思考:前編



−組織行動マネジメントによるリストラクチャリング−

選択の法則とは?


「環境の変化に適応するものは生き残り、適応しないものは淘汰される」

これを選択の法則といいます。

 恐竜は地球規模で生じた気候の変化に適応できずに絶滅したと言われて います。そして、その環境変化に上手に適応し生き残ったのが哺乳類、つ まり我々のご先祖様だそうです。

 イモ虫の仲間には背中に目玉のような模様のあるものがいます。これは、 突然変異によって生じた模様が天敵である鳥を脅かしたため生存する確率 が高くなって繁栄したせいだと考えられています。

 選択の法則は種の進化の仕組みを説明する概念の一つなのです。

選択の法則は進化に欠かせない


 選択の法則は「種」のレベルだけではなく「組織」のレベルにも作用し てます。最近の日本をみれば、バブルという経済環境で栄え誇った産業や 企業がバブルの崩壊とともに淘汰された様子が明らかです。特に情報処理 産業では、プログラマーの派遣を中心にしていたソフトウエア会社はリス トラを余儀なくされました。これからは高度な技術力や提案力、それに営 業力を持つ会社が生き残るだろうと予測されています。

 選択の法則は弱肉強食の競争原理です。しかし、この法則によって「種」 が進化するように、産業の発展に競争原理は欠かせないとも考えられます。

 選択の法則はさらに「個人」のレベルにも当てはまります。
 このところ新聞や雑誌では、年功序列と終身雇用を土台にしてきた日本 企業が給与体系を見直そうとしているという記事をよく見かけます。年齢 や学歴ではなく、個人の能力によって給与に大きな差をつけようというわ けです。欧米型の、個人の能力を評価して伸ばそうとする管理方法へのシ フトがやがて起きるのかもしれません。

 このような仕組みでは有能な人材は抜擢され、そうでないものは「窓際」 に徹するか会社を去ることになるでしょう。すなわち、個人レベルの生存 と淘汰がより激しく起こるようになるでしょう。

 組織間の競争が産業全体の進化に不可欠なように、個人間の競争は会社 の進化にとって必要なのかもしれません。

 さらに選択の法則は「行動」のレベルにも当てはまります。

 同じ個人の行動でも環境に適応する行動は残り、環境に適応しない行動 は消えていきます。

 新卒の新入社員の行動が徐々に学生のそれではなく一人前の社会人らし くなっていくのも、新しい部署に配属になった人間が担当製品に関する知 識や技術を身につけるのも、すべては選択の法則が「行動」のレベルに適 用された結果です。

 マネジメント・テクノロジで取り上げてきたABC分析は、まさに選択 の法則が「行動」のレベルに適用される様子を表したものなのです。

ABC分析とは?


 ソフトウエア会社における営業担当者の「提案」という行動を例に考え てみましょう。これまでは、仕事の種類や規模を聞き、それに見合った工 程や予算を提出していれば多くの場合事が足りました。けれどもこれから はそうはいきそうにありません。顧客のニーズ、しかも現在のニーズだけ ではなく長期的な経営計画に基づいた情報処理システムの提案を行う形態 の営業がキーポイントになると言われています。

 このような環境では「何か仕事はありませんか?」という消極的な営業 活動は契約を生むことができずに淘汰され、「こうしたシステムはいかが ですか?」という積極的な営業活動が生き残るでしょう。

 これをABC分析を使って検討してみましょう。まずはバブルの時代。 積極的な営業活動も消極的な活動も大差なく受注を生み出しました。選択 の法則が作用していませんから積極的な営業活動は行われませんでした。


選択の法則のABC分析:営業担当者の行動(バブル期)

A(先行条件) B(行動) C(結果)
客先で 「何か仕事ありませんか?」 受注あり
「このようなシステムを導入すれば生産性を20%アップできます!」 受注あり

 ところがバブルがはじけた後、顧客のニーズも変わり、不況で受注競争 も激しくなったため、より積極的な営業活動が必要になりました。

選択の法則のABC分析:営業担当者の行動(バブル後)

A(先行条件) B(行動) C(結果)
客先で 「何か仕事ありませんか?」 受注なし
「このようなシステムを導入すれば生産性を20%アップできます!」 受注あり

 つまり個人の行動レベルで選択の法則が作用するようになったのです。


 残念なことに、選択の法則のみによる進化には時間がかかります。企業 レベルでは産業の変化に耐えきれず倒産が起こるように、個人レベルでは 仕事に対する不適応や転職などが起こり得ます。

 個人や行動レベルでの進化を促進するためには、単に余剰人員を営業に 回すのではなく、トレーニングプログラムで提案型の営業活動の具体例を 教え、フィードバックを与え、達成には、たとえばボーナスなどの報酬を 与えるようにするのです。

 要するに、自然のABCに人工的なABCを付け足して、選択の法則を 利用して行動をシェイプアップするのです。これが行動のリストラです。


選択の法則のABC分析:営業担当者の行動(人工的なABC)

A(先行条件) B(行動) C(結果)
積極的な営業活動の具体例 「何か仕事ありませんか?」 コーチが注意する
ボーナスなし
「このようなシステムを導入すれば生産性を20%アップできます!」 コーチが誉める
ボーナスアップ

 このように、組織が生き残るために個人の競争原理が必要なように、個 人が生き残るためには、行動のレベルでの競争原理が必要なのです。

選択の法則は個人の進化にも欠かせない


 選択の法則は自然の法則です。人間にどうこうできるものではありませ ん。我々にできるのは選択の法則を理解し、この法則が我々にとって都合 良く作用するような工夫をすることです。


 普通リストラといえば事業所や部署、あるいは生産ラインなど企業の構 造に手を入れるケースが多いようです。

 これに対し、組織行動マネジメントのリストラは企業の中に存在する選 択の法則を整理してシステマチックに再構築します。こうして産業レベル、 企業レベル、個人レベル、そして行動レベルでの生存を助けるようなAB Cの構造を創るのです。

 次号はシステム的思考を使っていかに行動的なリストラを推進するかに ついて解説します。

来月に続く。